日本人エンジニアの皆さん。あまり危機感を感じられていないかもしれませんが、今まで頼りにしていたシニア層のエンジニアが引退し、人的リソース不足が原因で様々な問題が引き起こされる未来が目前となってきています。そのようにならないために、海の向こうに居る外国人エンジニアを活用する取り組みを今から考えていくことが求められます。中国やアジア各国に住む外国人エンジニアに対し、日本人エンジニアの皆さんがどのように接すれば良いのか。を今を取り巻く国際情勢を踏まえ説明します。
10年後から現在を振り返る
今から10年後の2030年代、皆さんは幾つになっていて、どこで、何をしているでしょうか? 将来について少し想像してみて下さい。
未来は不確定で、特にテクノロジーは我々の想像を超える変化をもたらすものです。(例えば、コロナ禍の影響でリモートワークが当たり前の世の中になってしまいました)しかしながら、将来の人口変動はある程度予想が立てられます。(下図参照)

いまから10年後、日本の2030年の労働力人口は、2020年の6404万人から5880万人も減るそうです。(厚生労働省)
BRICsといわれる新興国で人口爆発とともに年間7%近い経済成長が続く一方、わが国の「働き手」は10年で524万人減る未来が、ほぼ確実にやってくるのです。
10年後、皆さんはどこで、どんなキャリアとライフスタイルを営んでいるのでしょうか。キャリアを考えるとき、「未来」の立場から「現在」を振り返ってみるという視点も必要です。技術革新や社内外における環境変化の中でも自分がイニシアチブを取り、自分と周囲にとって最適な提案をしていくというスタンスは、スペシャリスト志向であるにせよマネジメント志向であるにせよ、今後ますます大切になるでしょう。
もし、経営を担うポジションを目指すのなら、今からどう取り組むことが企業の発展のために必要なことなのかを考えていくことが大切です。
少子化社会への処方せんと海外人材
個人の視点を超えて社会全体を見ると、少子化社会への対応策は実にいろいろな方面から提案されています。テクノロジーを活用し生産性を上げる、女性やシニアの働きやすい環境をつくる……。もちろん対応策の中には、本コラムのテーマとも関連する海外エンジニアの活用も含まれています。
政府の成長戦略の中に「外国人材の活用推進」が挙げられています。これは第4次産業革命の下で国際的な人材獲得競争が激化する中、高度な知識・技能をもつ外国人材を受け入れ、日本経済の生産性、イノベーションを加速させる戦略です。
「日本人エンジニアのレベルが低く、外国人エンジニアが高いから」という意味ではなく、異なる価値観や異文化から生まれる革新的なイノベーションには、外国人の視点が不可欠と考えているからです。それら外国人材が長期にわたり我が国で活躍できるよう、優秀な留学生の日本企業への就職促進や、地域に外国人が共生できる社会作りを国が取り組んでいます。
このような「外国人材の活用推進」の取り組みがある一方で、「自社(や個人)はどのように対応したらよいのか、イメージが沸かない」という話をよく聞きます。。そこで以下では、海外の活力を取り込むための4つのポイントを紹介します。
■海外の活力を取り込む4つのポイント
「海外の活力を日本が取り込む方法」は、以下の2つの軸から考えられ4点に大別できます。下記の表を見て下さい。
- 国内で取り込むか、海外で取り込むか (⇒横軸)
- 人的資源(社員)として取り込むか、市場(顧客)として取り込むか (⇒縦軸)
- 国内で海外人材の活用を進める
- 海外で現地人材の活用を進める
- 国内の外国人市場で販売する(内在的輸出型企業)
- 海外の現地市場で販売する
国内 | 海外 | |
---|---|---|
人的資源(社員) | 1.外国人社員の活用 (外国人就労者の増減) | 2.現地社員の活用 (海外現地法人従業員数の増減) |
市場(顧客) | 3.外国人市場 (登録/訪日外国人数の増減) | 4.海外市場 (業界別海外売上比率の増減) |
1.国内で海外人材の活用を進める
国内の労働力人口が減少する一方で、日本国内における外国人数は伸びています。既に在日外国人数は289万人を超えており、うち日本での就労を目的とした外国人も2010年の65万人から2020年の172万人と、この10年で2.6倍増しています。(厚生労働省)
日本企業の国内における外国人社員活用の目的としては、主に以下の3点です。
- 国籍不問採用
- ブリッジ要員
- ダイバーシティ(多様性)
国籍不問採用は文字どおり、国籍に関係なく優秀な人材を求めるというもので、かなり前から存在します。特に理工系の人材採用で多く見られるのが特徴で、日本語が話せることや日本企業での就労経験などが重要視されます。
ブリッジ要員は、海外とのインターフェイス(=架け橋)となる要員で、外国人社員の言語や出身地といった「母国との関係性」に期待をするものです。特に、海外市場攻略という経営課題がクローズアップされてきて以降、必要性が顕在化してきています。以前は対中国要員が求められましたが、最近では対ベトナム要員が多く見受けられます。また、日本企業の進出に合わせ様々なニーズもあります。
ダイバーシティ(多様性)は、近年期待されるようになった考えで、2005年から始まった日本社会における人口減少を背景に、企業内の人口構成も年長者が多く若手が少ない「少子高齢・逆ピラミッド構造」となる中、あえて異文化背景を持つ人材を社内に取り込むことにより組織の活性化を促したいという目的により導入されています。
また、日本の高等教育機関(日本語教育機関は除く)に進学した留学生は、2019年31.2万人と過去最高で、その多くが日本で就労しています。(出入国在留管理庁)
2.海外で現地人材の活用を進める
海外で暮らしている在外日本人数は既に141万人(2019年)を突破(外務省)していますが、日系企業が海外で雇用している現地法人従業員数も564万人(2019年)と高い水準を保っています。注目すべきは、アジア(全地域に占める割合が67.6%)では、ASEAN10(同28.5%、前年度と比べ+0.1%ポイント上昇)の割合が9年連続で拡大、中国(同29.7%、同+0.1%ポイント上昇)の割合も7年ぶりに拡大しています。
現地人材の活用の目的は、主に以下2パターンに分けられます。
- (a) 海外で生産し、日本市場で売る(=市場は日本)
- (b) 日本もしくは海外で生産し、海外市場で売る(=市場は海外)
かつては(a)のケースが多く、あくまでも日本市場向けであるので、現地社員の活用といっても仕様どおりに製造工程を担当するオペレーション要員がメインでした。IT業界のオフショア開発も日本市場向けという意味では同様であり、仕様書どおりにコーディングするプログラマとしての活用が主でした。(近年ではより上流の部分を受託可能になっていますが)
一方で、この数年伸びてきているのが(b)の海外市場向けです。この場合、海外市場向けの企画開発、製造、販売、売上回収など一連の対応が必要であり、自立的に考えられるマーケット型のホワイトカラーが対象となります。IT業界でいえば、現地でERPパッケージソフトを販売するなどが代表例です。当然、ワーカー(大量に存在)とホワイトカラー(採用競争)では採用・活用のアプローチが異なり、特にホワイトカラーについては多くの日本企業が苦戦をしているところです。
また、最近の傾向として越境EC販売により、日本に居ながら海外の商品を購入したり、日本の商品を海外在住の人が購入したりと、手軽にモノの調達が図れるようになりました。
3.国内の外国人市場で販売する(内在的輸出型企業)
日本国内の人口は、2020年の1億2622万人から2060年には8674万人に減少するという予想がされています。これは日本国内市場そのものの縮小を意味し、すでに自動車や家電などは国内市場で以前ほど売れにくくなってきています。一方で、日本在住の登録外国人や、海外旅行で日本を訪れる訪日外国人はともに増加している面もあります。
最新状況は以下の通りです。
- (a)登録外国人:2011年の208万人から2021年の 289万人へ増加(出入国在留管理庁)
- (b)訪日外国人:2011年の622万人から2019年の3188万人へ大幅増加(日本政府観光庁)
従来はきちんとした「外国人市場」というセグメントはなく、草の根、口コミ的に販売が行われていましたが、上記のような登録・訪日外国人それぞれの大幅な増加により、一定の市場規模を持つようになってきました。
特に、10年で5倍増の訪日外国人向けの市場は有望で、在日外国人向けのポイントカードの発行や、訪日外国人向けに外国語の堪能な接客要員を配置するような動きなど、観光業界を筆頭に国内の外国人市場向けビジネスがこれからも伸びていくでしょう。(2020年からのコロナ禍の影響は大きいですが、市場拡大の方向は変わらないと考えます)
4.海外の現地市場で販売する
海外事業部を有している大手企業の「業界別・海外売上比率」(2019年)を見ると、自動車の43%、電気・電子43%、一般機械37%、化学35%と、海外市場の割合が4割前後の業界が多く出てきています。
これ以外にも海外市場を目指す業種は数多くあり、子ども向け衣類の販売や教育分野、日本食の飲食業など様々な業種が海外市場への参入を考えていることでしょう。
また、先ほども話したように、越境EC販売により、日本の商品をネットを通じて現地に販売するという手段が取れるようになり、新たな海外展開も考えられます。
■取り込むか、取り込まれるかではなく、一緒に協力して問題を解決していくこと ー 国・地域・企業・個人
IT業界に絞り、まとめます。
IT業界において、「人的リソース」としても「マーケット(市場)」としても、外国人リソース(エンジニア)の活用は重要です。
今回のコラムの4つのポイントをヒントに、海外の活力を取り込めるように周りに働きかけを行うことが望まれます。これは、国・地域・企業・個人としても同じです。
特に、1つ目のポイントである「国内で海外人材の活用を進める」は直ちに動く必要があります。外国人エンジニアを競争相手と見ると、技術を教えることに躊躇することにもなるし、信頼を築くことも難しくなるでしょう。それぞれの立場で目的・ミッションを持ちながら自分がイニシアチブを取り、関係を築き上げていくというスタンスでないと、一緒に協力して問題解決に取り込むことはできません。
労働力人口が激減する「10年後」の自分の立場から現在を振り返り、大胆すぎる対応をするくらいでちょうど良いのではないでしょうか。